天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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公益財団法人・天田財団の設立30周年を迎え、同財団が鋭意推進してきた助成事業が、わが国の金属加工分野の研究基盤構築および関連技術の進歩発展、加えて、同分野の人材育成に果たした諸業績の大きさをあらためて痛感し、財団創立者 天田勇氏の御英断、および、御遺志を継承されて財団運営に注力してこられた御関係各位に、心からの敬意を表します。東京大学・生産技術研究所、および、社団法人・日本塑性加工学会において、金属加工の研究・開発、ならびに、教育・指導に長くかかわり、天田財団から多くの恩恵を受けた研究者の1人として、さらに、同財団の助成事業をつぶさに見せていただき、多くの貴重な経験をさせていただいた理事として、この機会に、同財団からいただいた御高配の数々に深く御礼を申し上げ、併せて、同財団の今後への期待について私見を述べさせていただきます。資源に欠けるわが国が目指すべきは、高度工業化社会であり、加工貿易立国であるとして、過去60年、その実現に向けて多くの製造技術・加工技術の基礎研究・応用開発が推進され、それらがもたらした大きな成果を広く国民が知るところとなりました。その過程で、わが国を支える基盤は、製造業であり、加工技術であるとする考えが、国民の間に深く浸透し、製造・加工業を単なる工業活動の一部であると考えるのではなく、それらは活動する社会基盤であり、社会機能そのものである、とする認識が定着してきました。そのような中で、"モノづくり"という言葉が生まれ、製造業・加工技術の社会的役割や責任を意識しつつ広く使われるようになり、"モノづくり"は、産業であると同時に、強い社会性を持つ活動・行為・機能であり、人間社会の表象・所産としての"文化"である、との考えも生まれ、今や、日本社会の核心を体現している言葉と考えられています。わが国としては、この"モノづくり"を国を挙げて盛り上げ、その持続的発展を期していくことが必須です。天田財団は、"モノづくり"に占める金属加工の重要性に鑑み、大学・公設研究機関等における同技術にかかわる萌芽研究、基礎研究、応用研究を広範に支援することを目的とし、活発な研究費助成活動を展開してきました。過去30年にわたる支援実績は、件数で1,500件余り、金額にして20数億円に及んでおり、文字通り、この分野の基盤構築や進歩発展に大きな成果を挙げてきました。全国の大学・高専・公設機関等に所属する金属加工分野の教官・研究員・大学院学生等で、同財団よりの助成の恩恵を受けなかった者はほとんどないと言っても過言ではありません。その結果、同財団から与えられた助成の大きさ・貴重さ、支援のありがたさに対しては、すべての関係者が等しく敬意と謝意を表しています。そればかりではなく、同財団が成し遂げた実績の重要な意義は、かかる助成を通しての研究・開発の促進のみではなく、研究者を育て、研究者のコミュニティーを育て、学会を育て、"モノづくり産業"を育て、高度工業化社会の構築を促進し、結果、"モノづくり産業文化"の創造に貢献したことにあります。さて、人間社会の精神的・知的所産たる文化と、われわれの生活を支え、社会を支え、国を支えている製産業文化の育成を期待する木内 学公益財団法人 天田財団理事・東京大学名誉教授公益財団法人 天田財団創立30周年に寄せて6序 文

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