天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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トの協働を前提とする技術の整備が求められる。(6)現状、情報技術がすべてを牽引しているかのごとき様相であるが、情報技術はハード技術やその所産たる事象・事物と結合して初めて価値を生み出す。ゆえに、情報化産業社会で相応の利得を得て生き抜くためには、優位性のあるハード技術の開発や高度化への挑戦を怠ってはならない。(7)あらためて、基礎研究の重要性を確認すべきである。ただし、ここで言う基礎研究とは、通常考えられている研究用モデルや実験用装置を用いて行う実験・試験あるいは計測・解析ではない。現実のプロセスの中で起こっている現象・事象を、可能な限り正確に把握することを意味する。そこには、今まで気付かなかった関係性や規則性が必ず存在し、それらを捉えることによって、多くの問題が解明できる。すなわち、基礎研究重視の本意は、現状把握と自己分析の徹底を、数段レベルアップして実行すべきである、との意である (図16参照)。(8)"技術"および"モノづくり"とそれらが生み出す所産や利便性は、人間の生存・生活を支え、社会構造や社会機能を維持し、もって、人間の精神的活動や知的行為、あるいは、知性・感性の涵養に大きな影響を与えている。かかる意味で"技術"や"モノづくり"は、文化育成の基盤であり、文化そのものでもある。文化の視点を持つことは、人間の知性や感性を育て、それらは"モノづくり"にとって不可欠な創造性を育てる。(9)創造性を育てよう!創造性は、広い知識と深い理解から生まれる。可能な限り広く知識を求め、でき得る限りの学習をして理解を深めよう。情報万能の様相を呈している"モノづくり"の世界も、創造性豊かな人間の活躍なしには、発展に限界がある。コンピュータに先導される情報・通信技術やAIは、知識・データを集めて解析することにかけては人間をしのぐが、それらを理解し知恵を生み出すことはできない。広範な知識の獲得と人間だけが可能な理解を深めることこそが、知恵を生み感性を高め、創造性を育てることができる。第3階層拡張・融合新技術やプロセスの多くは周辺の関連技術・支援技術と結合融合することにより初めて有効に活用される!成果実用化図16. 基礎研究の階層と課題 いわゆる研究・開発の死の谷については、基礎研究の側に検討すべき多くの問題がある。特に、研究者の意識・認識に問題があり、これを改める必要がある。基礎研究にはおおむね3階層があり、少なくとも第2階層に至らない研究の結果は、工業技術としては利用できず、実用的意味を持たない。第1階層発想・確認発想した事象事物を確認発想死の谷第2階層集積・構築データや知見を集積関係/相関/規則性等を分析し、技術的枠組や体系を提示初期成果曲線日本の金型は世界最高の品質・機能を誇っているが、必要な支援技術が未整備のため、優位性を明示できず、海外で単なるコスト競争に巻き込まれ、敗れている。高度技術にはSUB-支援技術が必要である。29

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