天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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の製造にかかわるあらゆる事物・事象が情報ネットで結ばれ、採取した情報の分析結果やAIに先導されて、知能化が進んだ生産システムや加工設備が作動し、極めて合理的かつ効率的な製造・加工が行われる、と説かれている。また、従来難しかった製造・加工が容易に行えるようになり、先進的な産業が生まれることも期待されている。新産業革命の基盤要素技術は、Big-Data、IoT、AIなどとされ、これに、知識ベース、情報ベース、データベースが加わることが想定される。もちろん、これまでに蓄積された生産工学や現代制御理論による成果や、各種の先進計測技術なども活用される。加えて言えば、これら要素技術の機能・能力は、それぞれの中核にあるコンピュータの機能・能力に依拠しているので、コンピュータの進化如何が、全体の成否を左右する要因ともなり得る。その上で、人間とコンピュータを結び付ける技術、すなわち、コンピュータを駆使するための論理や思考過程の構築、評価手法・判断基準の設定、知識や情報を容易に変換できるインタフェースの開発等にかかわる技術、さらに、周辺に配置結合するシステムの構成技術、関連する理論やシミュレーション技術も共通する課題である。み上げ・蓄積していくグランドプランをあらかじめ用意し、無駄のない情報収集を実践すること、(4)収集した知識・情報・データについては、関係者全員で必ず学習し、その後、各ベースに収納すること、(5)実用的応用性の高いデータ解析理論・手法や統計数理を学習し習得すること、また、利用できるソフトがあれば装備すること、(6)制御理論および制御技術について学習し使用法を修得すること、などが挙げられる。IoTやAIにかかわる抽象的な議論や誇張されたプロパガンダに目を奪われることなく、加工現場に即した信頼できる知識・情報・データの収集・蓄積や、それらの綿密な分析に基づく技術革新こそが、来るべき新産業革命に挑戦する本筋である。深耕が創造性を生む金属加工はいかに対処すべきか?このような動きに対して、金属加工は、どう対処し、何を成すべきであろうか?この問いかけに対しては、すべての製造・加工技術に共通する課題として、以下の2点、すなわち、"質の高い情報の獲得と、それらの必要十分な蓄積"、"高度な情報分析能力の修得"を指摘できる。これらの課題へ向けての準備として、(1)現場に眠る膨大な経験知・ノウハウ・暗黙値データなど、(これらは最も質の高い情報に当たる)、を抽出し収集する方策や仕組みを構築し、継続的に実践すること、(2)高い機能性・信頼性を有する計測手段や計測システムを具備すること、また、既存の機器や手段では目的を達成できない場合には、機器や機材を自ら考案・開発することをいとわないこと、(3)収集・獲得した知識・ノウハウ・暗黙値・測定値などを知識ベース、情報ベース、データベースとして組"破壊と創造"はいわゆる社会革命のキャッチフレーズであるが、技術の世界では、"破壊"でなく、創造へ向けた〝深耕"が重要である。"深耕"には、"物理事象・事物の解明・確定のための深耕"、および、"可能性探索のための深耕"の二面があるが、ここで重要と考えるのは、敢えて言えば、前者である。新産業革命が目指す新しい製造・加工システムでは、かかわるすべての要素技術や関連機器および事象・事物を情報ネットで結び、最適状態を探索し維持しつつシステムの稼働を続けることを計画しているが、これを実現するためには、個々の機械・機器、事象・事物の特性や挙動について、でき得る限り正確に知っておく必要がある。現在、自分がかかわっている稼働中の製造プロセスについて、どれほど正確に把握しているか?(知り且つ理解しているか?)、と問われて、明確に答えられる人は少ない。少し考えてみると、われわれは、日ごろ、非常にあいまいな把握、理解、判断に基づいて仕事を進めていることが分かる。それで問題が起こらないのは、現行の技術は、未だ多くの局面や段階で人間の介入を求め、微小な修正を繰り返しているからである(図14参照)。しかし、新産業革命が目指している製造・加工形式では、各プロセスは、人間の介入を極力排して、情報・データのやりとりだけで、判断し、決定し27

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