天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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が国の将来にとって死活的重要な目標である。そのためには、いかなる条件が必要であろうか?人工知能(AI)の発達がすべてを解決してくれる、かのごとき論がまかり通っているが、おそらく間違いである。現在の人工知能と呼ばれる電子装置(現実には、形を変えたコンピュータ)が可能としている働きは、与えられた条件や結果の中から目的にかなうものを探し出す、また、与えられたルール・手順に従って同じ演算や動作を繰り返す、という類の作業であって、与えられていない考え方やルール、手法や手順を自ら創出して活用し、独創的な結果を効率的に生み出している訳ではない。その作業速度がわれわれの想像を遥かに超えて超高速であり、扱う条件の数や手順の種類・ステップ数が膨大であっても、短時間に答えを見いだすことができるため、人間よりはるかに複雑な思考が可能であったり、多くの問題に対して人間以上に対応できるように感じられ、あたかも人間と同等かまたはそれ以上の優れた知能を持つように見えるだけである。すなわち、現在のAIは、未だすべて作業を、その核心のところで、人間の指示に従って行っており、AI自体が論理を創造できる機能を持っている訳ではない。近年、Big-Dataを収集してDeep Learningを行えば、どんな問題についても、最適な答えが容易に見つかる、などと言う論者がいるが、これも全くの無責任な宣伝である。何故ならば、仮にDeep Learningを行うにしても、その実施方法すなわち学び方は、人間が教えるのであり、AIが創出するのではない、からである。すなわち、現状のAIは、人間の指示や与えられたルール・手順に従って超高速で作業をしているのであって、知能というものの本質的特性・機能が、思考する、発想する、あるいは創造する能力であるとすれば、未だその域に達していない。しかしながら、果たして、万能なAIは可能であろうか? また、必要であろうか?主役はコンピュータか?製造加工機械や工場の自動制御技術の発展の経緯を振り返ってみると、高機能の小型コンピュータが開発され、個別機械やライン内に広く利用されるよう求められる融合型技術体系わが国は、無人化生産の流れを強力に促進し、高度な生産力を整備・保持する必要がある。そのためには、ソフト・ハード融合型、知識・知恵融合型、人間・機械融合型など、様々な融合型技術体系を整備していく必要がある。ここで言う融合とは、異種・異分野の技術あるいは事象・事物を結び付け、新しい機能や効果を生み出す、個別技術では非常に困難であった課題を解決する、など技術の機能と応用の可能性を拡大する方法論である(図8参照)。実際、融合には、個別の具体技術の組み合わせによる多様な形態があり、同時に、技術レベルによって、(1)原理・法則性・理論の融合、(2)プロセス・工程の融合、(3)加工機・工具の融合などの水準に分かれる。融合を目指す場合には、どのような技術間の組み合わせについて、どの水準での融合を、いかなる目的のために行うのかを十分に検討する必要がある(図13参照)。上記のハード・ソフト融合型の技術とは、従来、いわば中央制御垂直統合型の設備・機械により構成されてきた製造ラインを、分散制御水平協調型システムに転換し、設備・機械各部の動きや、プロセスになった1980年代を境に、製造現場における人間の製造・加工へのかかわり方や役割が大きく変わったと言うことができる。コンピュータにより、大量のデータ収集と分析、それらに一定の演算処理を加えてのデータ間の関係性の解明、複数の機械設備等に対する複雑な手順に従っての信号の授受、計測装置との連動による稼働状況の把握、プロセスの数値シミュレーションに基づく的確な予測、などが容易になり、それ以前には不可能であった加工設備の最適操作や正確な工程管理などが行われるようになった。その結果、生産現場の省人化は著しく進み、現在では、人影が途絶えた大規模工場も珍しくはない。すなわち、様々な製造・加工分野において、無人化が着実に進んでいる。しかし、これらの無人化への前進は、AIの機能によって為されたものではなく、人間が計画し、設計し、建設した技術体系によって実現したものばかりであって、その中核で活躍しているのは、AIではなく、人間の頭脳とコンピュータである。25

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