天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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を利用することだけを考えた議論であり、その内容は、知識を収納する箱や棚をどう用意するか、どのように並べ、どのように結べば、何ができるか、ということに過ぎなかったからである。結果、必要な知識が用意されていない以上、入れ物だけあっても、何の用途にも対応できなかったのが実態である。どうすれば箱の中身、すなわち知識、を充実することができるかという問題の核心については、誰も答えを示さなかったかかる空箱理論?(Empty Box Theory)は技術の革新とは無縁である。しかし、目を転じると、知識の収集・蓄積は、実は、多くの組織や企業において、地道に行われていることが分かる。日本企業の多くで長年続けられ、世界に誇る成果を挙げてきたカイゼン運動や5S運動は、見方を変えれば、意識されているか否かは別として、製造現場で実効的に活用されている知識の掘り起こし活動、あるいは、知識創成活動である。例えば、年間1,000件の改善提案がなされる組織においては、付随して、数千件の知識が抽出または創出され、蓄積されることになる。さらに、それらを分析・加工することにより、数多くの新たな知識が生み出される。このような活動は、中小企業でも十分可能である。筆者は『Knowledge 50活動』の実施を勧めてきた経験を持つ。これは、企業・組織の各職場・グループ毎に、構成員が有用と考える50件の知識を協力して探し出し、それらを全員で学習し合い、学習が済んだらそれらを蓄積保存し、次の新たな50件を探し出して学習し、保存する。かかる活動を各職場・グループで繰り返し推進することにより、当該企業にとって最も有用な知識ベースが急速に構築されていく(図11参照)。他方、ロボット技術は、わが国で急速に発展し、充実しつつある。目下、社会のあらゆる局面においてロボットの導入が試みられているが、特に産業分野において、急展開しつつある。製造・加工分野におけるロボットの本格的な活用は、既に40年以上の歴史があり、自動車工場において、溶接ロボット列が黙々と複雑な組立溶接作業をこなしている光景は、わが国製造業の高度発展期の象徴として広く紹介され、多くの人々の脳裏に焼き付いているであろう。以来、順調に活用が拡大し、今や、ロボットなくして現代の製造・加工は語れない状況になっている。ロボットとともにあるために7.人間とロボットの協調的協働人間とロボットがともに働き、協力して新たな可能性を追求していく時代が目の前に迫っている。既に、多くの製造・組立ラインにおいて、隣り合う人間とロボットがそれぞれの得意とする作業を受け持ち、効率的なライン生産を達成している。このような事例は、今後、加速度的かつ多分野へと広がっていき、人間とロボットの協働は、近い将来、わが国の製造現場のごく普通の光景となろう。かつて、ロボットと並んで作業をしていた女性作業員が、「ロボットは優秀だ、作業が正確で間違いがない、自分たちもロボットに負けないようにスキルアップしたい、ロボットを見倣って頑張っている」と語るのを印象深く聞いたことがある。まさに人間とロボットの協調的協働であり、われわれが目指すべき将来の姿である。 人間とロボットとの協働促進に際して、考慮すべき重要事項として以下の4点がある。(1)いかなる形態・構造・機能を持つロボットを導入すべきか、導入・運転コストをいかに抑制するか、(2)ロボットに仕事の内容をどのようにして教えるか、(3)ロボットの管理・メンテナンスをどうするか、ロボットの故障・誤動作を防ぎ、協働する作業者の安全をどのように確保するか、(4)人間との最適な協働形態、ライン構成の最適化をどのように実現するか、である。このうち、(1)、(2)への対応は、どこでも誰でも使う図11. 知識の創成・収集 Knowledge 50 活動「Knowledge50」 CampaignEvery job shop, task force and/or work group should practice the followings.⒈Collect 50 K.I. or D.⒉Study the collected K.I. & D.s together all members,⒊Expand and revise K.I. & Ds,50 K.I.D.23

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