天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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有用な情報・知識・データとは何か?企業が自社内で業務遂行を目的とするIoTを構成する場合、(これをIoTと呼ぶか否かは別として)分野・範囲・目的が、いずれも限定的で明確であり、そこで取り扱う情報・知識・データも自社内に保有する自社のためのものである。期待される効果も、水準の高低は各社で異なるとしても、既に運用されている自社内のシステムの効果と基本的に変わらない。複数の企業間でIoTを構成する場合、(果たしてそれが可能か否か断定できないが)、そこで扱われる情報・知識・データは、各構成員がそれぞれ専門とする分野・課題・製品等にかかわるものの持ち寄りになり、よって、各構成員にとって、そこで流通する多くの情報・知識・データは、直接関係するものではない可能性がある。そのようなIoTは各構成員にとって、いかなる意味・効用を持つのであろうか? この問いについては、説得力のある回答は難しいが、少なくとも、以下の説明はできる。他分野・他業種・他製品にかかわる異質な情報・知識・データは、通常、入手が困難な場合が多く、それらを参照できる機会は貴重である。特に、技術が複雑化するほど、各要素技術に関する専門企業や熟練者から得られる情報・知識・データは得難い。その他に、分野や技術の種類によらず、深く掘り下げた経験や知恵は有用であり、それに接する者にとって有効な指針や教訓となり得る。それらは、各構成員が、自己革新を目指すとき、最も参考になる先例になる。結論的に言えば、IoTを真に活用できるか否かは、皮肉なことに、他の構成員から自らの仕事に直接的に役立つ情報を得られるか否かではなく、自らを深く分析し、考察・理解し、自分が求めているものを正確に知ることができるか否かにかかっている。その上で、当該IoTより、取得可能な情報を取り込み、それらを学習し、活用することが有効となる。本来、自らが必要とする情報として最も質が高く有用なものは、自らが保有しているのが本義であり、他にそれを求めるのは筋違いと言うべきであろう。結局、IoTを活用して必要な知識・情報・データを獲得する能力を高めるということは、自ら情報を創生する能力を強化すること、および、問題解決へ対応能力を高めることと同義であり、専門とする技術の革新と進化を追求する活動に他ならない。情報分析能力・活用能力を高めよBig-D.I.A.化が求めるもう1つの要件は、情報の分析・活用能力の強化である。あらためて指摘するまでもなく、情報自体は固有の価値を体現しない。情報は、事象・事物に結び付けての利用によって、結び付いた相手に付加的価値をもたらす。情報自体に新たに価値が生まれ増殖するわけではない。その証拠に、独占的に入手できる新しい情報には高額の対価を支払うことはあっても、公知となった同じ情報に対価が支払われることはない。ゆえに、情報を活用して成果・利得を得るためには、情報の特性を分析し理解して、事物・事象と結び付ける能力が必要であり、それなくしては意味を持たない(図8参照)。報を、有効に活用することにあり、それができないか、または、その実現に貢献しない組織・個人は、Big-D.I.A.化への参画ができず、結果、成果の配分をも望めないからである。Big-D.I.A.化による高度情報化産業社会の到来によって、求める知識・情報・データが労せずして手に入り、企業・個人の利得を増大させることが可能になると考えるのは、あまりに楽観的な夢想に過ぎない。相応の対価を支払わずして入手できる有用な知識・情報・データなどはないと知るべきである。それでは、ネットワークにつながる各構成員にとって有用な知識・情報・データとは何であろうか?図8. Big-D.I.A.化への当面の対応策計測技術の獲得実測能力の強化データ解析・分析手法の学習・修得IoT何を為すべきかいかに為すべきか情報・データの収集力の強化情報・データの分析力の強化何を為すべきか ?20特別寄稿

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