天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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レーザ加工の技術は、自動車の製造において、接合、切断など多岐に渡り適用されている。自動車車体へのレーザ溶接技術の適用とその変遷は、レーザ発振器の進化との相関を見ることができる。1990年代初頭に実用化されたテーラードブランク溶接は、複数の2次元平板の鋼板どうしを突き合わせ溶接で1枚の素材にしてからプレス成形する工法であるが、同時期に開発されたkWクラスのCO2レーザ発振器によって可能になった技術といえる。この工法により、板厚や材質の異なる鋼板の接合が可能になり、強度の最適化や部品点数の削減、軽量化などの効果を得ることができた。1990年代後半には3次元レーザ溶接が採用され、一方向からの狭い溝内の溶接や連続溶接による剛性確保など、従来の抵抗スポット溶接では実現困難な個所に対して使用された。この技術は、やはり同時期に開発されたkWクラスのYAGレーザ発振器が可能にした光ファイバー導光と産業用ロボットの組み合わせにより実現されたものである。 2000年代半ばになると、リモート溶接の採用が進む。従来200mm程度だった焦点距離を数倍の500~1,000mm程度まで伸ばすことが可能になった集光光学系の使用により、光路中に配置した可変ミラー(ガルバノミラー)の角度変更によるレーザ照射位置の瞬時移動が可能になり、レーザ溶接工程の時間短縮が実現できた。この技術は、集光性能が良く、長い焦点距離でも溶接が可能なファイバーレーザの開発によって実現できた。 別の接合技術としては、レーザブレージング(ろう付)を挙げることができる。この技術は、主に車体の鋼板パネルに銅ワイヤを送給しながらレーザを照射し、低融点の銅ワイヤのみを溶融させて鋼板をブリッジさせることで接合する工法である。車体部品である鋼板を溶融させず、またレーザを熱源とすることで局所的な入熱制御が可能であることから、接合条件を適切に制御することにより、細く、外観が滑らかで、かつ熱ひずみの少ない接合が可能である。そのため、接合後、後処理を省略して塗装を行い、車体の外板として使用することが可能である。 切断としては、2015年に量産車の車体鋼板の型抜きにレーザを採用する事例が現れている(本田技研)。従来、プレスにより行われてきた工程であり、レーザブランキングは切断長が長くなると時間がかかることから不利とされてきた。しかし、レーザヘッドの改良による2015年時点で世界最速の毎分120mという加工スピードの実現と切断工程の工夫により、プレスからの置き換えに成功した。レーザブランキングに変更することによる主なメリットとして、型抜き用プレスの金型や同プレス機設置のための基礎工事が不要になるなど、初期投資の抑制や製造開始までの時間削減、省スペース性などが挙げられる。現在、課題となっているレーザマシンのメンテナンス性改善への対応も含め、今後、汎用的な技術となるかどうかが注目されている。自動車産業におけるレーザ加工技術の利用COLUMN185

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