天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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一見して理解できるように、この間の製造・加工技術の進化は、情報技術と制御技術との結び付きの形をとって達成された事例が多い。また、提案された技術革新の方法論も、そのような結合を促進し実現することを目指してきたと言える。実際、製造プロセスや加工機械の数値制御(NC)から始まった生産システムの現代化は、その時々の情報技術や数値解析技術の成果を取り込んだ制御系の開発・実用化の中に最も端的に見て取れる。事実、ほとんどの製造・加工システムやプロセスの制御は、短期間のうちに、設計数値に基づくプリセット制御から、制御対象である設備・機械が発する時々刻々の状況データを用いて行う動的制御へと進化した。その過程で、採取データから最適操業条件を推定する手法について多くの提案があり、初期のCAEやFMSから近年のIMSに至るまで、多くの事例が報告されている。さらに、TPM、PDMなど、採取した条件データおよび結果データの分析から、製造プロセスの特性を解明し、その結果を利用して、操業結果や製品品質の予測、ライン・加工機のトラブルの未然防止、現行技術の問題点の指摘、同改革案の提案などを可能とし実行するための考え方や手法を示した方法論もある。いずれもデータ解析技術や数値シミュレーション技術に依拠して得た結果を、工場経営や操業へフィードバックして、最適な生産管理やライン制御などを実現しようとするものである。しかしながら、このような情報技術・制御技術全能、および、依拠する計画・設計・管理等に関する方法論万能、と思われた流れの中で、トヨタ生産方式、ジャストインタイム、タグチメソッド、カイゼン、5S、など、わが国が次々と創出して世界に広げ、生産・製造・加工の分野で極めて大きな影響を与え、かつ、貴重な成果をもたらし、今なお進化と普及拡大を続けている考え方・方法論がある。いずれも、全員参加・組織一丸となって地道な努力を積み上げることによって大きな成果につながる方法である。強い責任感と勤勉性や協調協力的組織など、日本人または日本社会特有の倫理観と共生感が成し遂げた成果である。これらは、コンピュータやITの発展・活用の中で、一度は技術進化の先端から取り残されたかのごとく見えた人間基盤重視の考え方と、その上に構築され発展したわが国固有の技術進化の方式・方法論である。われわれは、このヒューマンテクノロジー(HT)ともいえる技術進化の方法論の効用と重要性を、情報技術全能、人工知能万能、が叫ばれている現在もなお、あらためて再認識する必要がある。何故ならば、IoTやAIが拡張され、先鋭化すればするほど、情報の質の高度化とそれを分析・活用する人間の知恵や感性が重要になり、しかもそれらは、組織および構成員の知性・感性・経験・感覚とそれらの協調に負うところが大となるからである。わが国の"モノづくり産業文化"が育んできたヒト基盤尊重の姿勢が再び大きな役割を果たす状況が生まれつつある。かかる技術状況の推移・変化を見るにつけ、人間基盤の構築と運用に心血を注いだ先人の努力に、深い敬意を禁じ得ない。5.Big-Data/IoT/AIは 何をもたらすか?高度情報化産業社会の到来高度情報化社会が行き着く先の産業構造の基盤または骨格技術として提案されているBig-Data、IoT、AIは何をもたらすであろうか?(以下、そのような動きをBig-D.I.A.化、創出される産業と社会を、Big-D.I.A.産業、Big-D.I.A.社会と記す。)このBig-D.I.A.化された産業・社会では、例えば、金属加工工場またはラインについて、関連するすべての機械・機器、事象・事物を、情報ネットワークで結び付けることを目指している。広範かつ膨大な図5. 生産・製造・加工革新の方法論19701980199020002010NC, FA, FMS, CIM ,ESTaylor & Ford-3SMass Production byStandardizing,, Simplifying, and SpecializingCADCAMCAE3rd IndustrialRevolutionby Computer4TH Industrial-Revolution    byIoT, B-D, AII-4.0Modular SystemTAGUCHI MethodGlobal Mfg., IMS, IT, ICTStrategic Supply ChainKnowledge EngineeringSmart-Factory,RobotUnmanned Mfg.Productivity & Quality CampaignTPM, TQM, KAIZEN, 5STOYOTA Pro.SysKANBAN,Just in Time S-5.018特別寄稿

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