天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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2.レーザプロセッシング小原 實 慶應義塾大学名誉教授レーザプロセッシングでは、プロセッシング市場の要求・需要から、適切な高出力レーザが開発された歴史はない。高出力レーザの開発とそれを用いたプロセッシングは、まさに両輪であるが、常にレーザ媒質の研究者・レーザ物理工学研究者により高出力レーザ開発が先行し、その特徴を活かしたレーザプロセッシングが、ある時間遅延で実現してきた。2015年までの経済産業省(旧通産省)のレーザに関する国家プロジェクトで、多くの高出力レーザが開発されてきた。国家プロジェクトのスタートのタイミングは、米国・ドイツ国の動向に対する対応、ならびに大学・国立研究機関の研究者によって当該レーザ種の基礎的知見が成熟したフェーズと同期していたと記憶している。すなわち、レーザに関する国際会議・論文誌で発表される当該論文数が飽和したフェーズにプロジェクトは開始。日本国内にポテンシャルの高い潜在的開発実施者が存在することが必須で、その力量で目標の到達レベルが左右される。つまり、モノづくり産業の現場で【安定に動作する高出力レーザ装置】の性能に依存する。レーザ装置を構成する主要な光学部品の国内生産能力(輸入品でない)・性能・コストも大事である。もちろん、レーザ発振器の高い制御性は、わが国の得意とする先進電子制御技術に由来する。それぞれの国家プロジェクトの終了年度に少し遅れて、その高出力レーザによるプロセッシング産業が発展した。その周期はそれぞれ異なるが、このサイクルの繰り返しで発展してきた。日本では、レーザプロセッシングの技術者の多くはレーザ工学者ではないので、専門家でなくても簡単に使えるレーザ加工装置に仕上げることは必須である。高出力レーザとワークの間を結合するレーザビームデリバリー機器は、レーザプロセッシング現場の要求から、高度な光学技術を備えたメーカーで開発される。今後の10年も、この発展のスキームは維持されるであろう。事実、2016年度から、総額100億円規模の国家レーザプロジェクトがスタートしている。今後のレーザ機器産業、レーザプロセッシング産業の価値・規模を発展・加速できるかどうかは、プロジェクト実施者の高い志とプロジェクト成果評価者の叡智・先見性・洞察力に依存し、アウトカムの視点から研究開発がなされているかどうかが問われる。レーザプロセッシング産業の今後の発展には国の投資が必須173

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