天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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COLUMN自動車に今後課せられるさらに厳しい二酸化炭素排出量規制や燃費規制の対策として自動車の軽量化が求められており、実現の方法としてアルミ合金やマグネシウム合金など、鉄よりも質量の軽い素材の適用が検討されている。比重が鉄の約1/3であるアルミにマグネシウムや銅、亜鉛などを添加して強度を高めたアルミ合金は、現在でもドアの開閉カバー部品、エンジンやトランスミッション部位における鋳物やダイカスト合金などとして使用されているが、自動車の質量比で約7割を占める鉄鋼材料に対して約1割の使用にとどまっている。自動車ボディのパネルとしてアルミ合金を鉄製と同一形状で製造、使用した場合、鉄より低い剛性をカバーするために約1.4倍の厚みが必要となるが、質量比で約50%の軽減が可能である。剛性以外のアルミ合金適用の課題として、質量あたり鉄鋼の約3倍といわれる価格や板材の成形性のほか、接合性が挙げられる。アルミは鉄より熱や電気の伝導率が高いため、スポット溶接においては鉄鋼と比べて約2倍の加圧と2倍以上の電流が必要となる。現在、接合の課題克服の方法として、摩擦攪拌接合(FSW)やレーザ溶接、タンデムMIG溶接などが行われており、今後、さらなる技術の進歩による改善が期待される。マグネシウム合金も軽量化の効果が大きい素材の1つである。マグネシウムの比重は実用金属の中で最も小さく、鉄の1/4、アルミと比べても2/3である。また、比強度(強度/比重)や比剛性(剛性/密度)が高く、振動吸収性に優れるなど、自動車用の素材に適した性能を持っている。ただし、絶対強度値の低さからアルミなどを添加したマグネシウム合金として使用されることが多い。従来は、素材の性質上、冷間加工が難しく圧延加工コストが高くなることから主に鋳造、ダイカストに使用されていたが、圧延工程の改良により板材製造の低コスト化が期待されており、改良により塑性加工性が向上した製品も開発されている。また、大気中におけるマグネシウムの可燃性については、熊本大学が開発したKUMADAIマグネシウム合金において、亜鉛やイットリウムなどの添加により不燃性が達成されており、今後は自動車や航空機などへのさらなる適用が期待されている。接合における課題として、電気の伝導率が高い素材のため、スポット溶接において鉄鋼よりも高い電流値が必要となるが、現在、摩擦攪拌接合(FSW)、レーザ溶接などの接合方法の開発が進んでいる。 天田財団の研究助成においても、アルミ合金やマグネシウム合金に関する研究は複数あり、助成研究の成果報告をまとめた機関誌『FORM TECH REVIEW』Vol.10においては「アルミ系材料の新機能開発と先進利用開発 特集」としてアルミ合金の研究成果を特集しており、また『FORM TECH REVIEW』Vol.20の「軽量化材料とその加工技術 特集」においてはマグネシウム合金に関する研究成果が複数掲載されている。ご参照されることをお薦めしたい。自動車の軽量化に対応する素材 ーアルミ合金とマグネシウム合金ー謝辞天田財団30年史 塑性加工の技術変遷の資料にご協力いただいた方々に感謝申し上げます。(順不同、敬称省略)吉田総仁、瀧澤英男、阿高松男、春日幸生、白寄 篤、星野倫彦、吉野雅彦、石川孝司、古閑伸裕、山崎栄一、 森 敏彦、中村 保169

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