天田財団30年史「人を育て、知を拓き、未来を創る ~天田財団30年の軌跡~」
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2.金属加工と"モノづくり産業文化"金属加工発展の50年―復興、停滞、そして復活―高度成長の所産:"モノづくり産業文化"と、生活を支え、社会を支え、国を支えている技術、およびそれが生み出す事象・事物とは、相互に深く結び付いており、文化を語るには技術的視点を、技術を語るには文化的視点を持つことが必要であり、また、持つべきである。特に、われわれが未来を語るには、そのような視点が不可欠であろう。例えば、今後求められる新技術や新製品の可能性について議論する場合にも、技術の未来を語ると同時に、社会や文化の未来をも語るべきであり、目指すべき人間社会や生活のあり方についての考察を通して、これまで以上に広い視野から課題を追求していく取り組みが、より豊かな成果に結び付くと考えられる。わが国の金属加工の発展の経緯は、以下の様に要約できる。すなわち、(1)第2次大戦後の復興期を経て技術基盤を固め、1960年代後半から始まった高度経済成長を牽引する形で、鉄鋼・造船・機械・家電など、各分野で急激な拡大を遂げ、(2)1980年代後半から90年代初めには躍進の絶頂期を迎え、その間、"Just in Time"に象徴される日本発の高度に合理化された加工技術や生産方式を樹立・駆使し、超深絞り鋼板他の高品質素材や、カメラ、VTR、カラーTV、さらに、信頼性の高い計測機器・自動車・高速鉄道など、高この間、資源に欠けるわが国が目指すべきは、高度工業化社会であり、加工貿易立国であるとして、その実現に向けて、多くの生産技術・加工技術の基礎研究・応用開発が推進され、それらがもたらした大きな成果が、上述の世界に誇る諸製品として次々と発表され、日本の製造・加工技術の水準の高さを広く国民が知るところとなった。その過程で、わが国を支える基盤は製造業であり、加工技術であるとする認識が国民に強く深く浸透し、製造業を単なる工業生産の一部であると考えるのではなく、社会基盤であり、社会機能そのものであるとする考えが広まってきた。そのような認識の中で、"モノづくり"という言葉が生まれ、製造・加工という言葉に代わって、より以上に社会的役割を意識し、社会と結び付き、さらには日本社会そのものを表現する、との意識を込めて使われるようになった。その結果、製造業や加工技術は、広く、"モノづくり産業"、"モノづくり技術"という表現を得ることになり、産業技術であると同時に強い社会性を持つ活動・行為・機能であり、ゆえに、人間社会が生み出す事象であり成果である"文化"の一部であると理解されるようになった。すなわち、"モノづくり"は"社会機能"であると同時に"産業文化"として重要な役割を担っているとの認識が生まれてきた。世界でも他に類をみない躍進を遂げたわが国の製造・加工業、および、そ精細・高機能・高品質製品を続々と世界市場に送り出し、(3)結果、"奇跡の成長"、"Japan as No.1"等の評価を得て、世界にその技術力を誇ることになった。(4)その後、バブル発生とその崩壊を経て、日本社会が長い低迷期に突入し、金属加工もその影響を受けて一時的停滞を余儀なくされたが、(5)21世紀を迎えて、着実な発展を取り戻し、再び、強力な開発力を駆使し、各種高機能鉄鋼生産機械、サーボプレス等高機能鍛圧機械、超高速高精度5軸工作機械、ハイブリッド自動車、多種多様な産業用ロボット、高機能無人建設機械、環境保全機器等の先進分野で、世界を先導する成果を挙げ、目下、さらなる未開分野を目指して発展を続けている。図1. 技術と文化のかかわり社会文化・産業文化・民族文化etc.地域性/多様性変容性/拡張性文化=人間・社会の表象価値観・規範 の共有、共同体 ・社会の形成社会基盤を構築、社会機能を維持芸術・芸能哲学・美学etc.感情的心象・印象抽象的観念・認識感性/認知技術・技能工学・理学etc.物理的事象・事物具象的認識・思考論理/理解人間社会生命基盤創造空間15

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